住まいの“かがくぶっしつ ー しっくい 

古くから使われている自然素材の左官材と言えば、しっくいです。しっくい塗りは戦国時代の城郭建築で独自の工法が作られ、その後明治時代の洋風建築にその技術が活かされました。しっくいはエジプトのピラミッドにも使われているほど非常に古くから人が利用してきた材料です。前回お話した珪藻土は粒子を糊で固めるというものですが、しっくい壁は主成分である「炭酸カルシウム(CaCO3)」の化学変化を利用して硬化させます。

しっくいの主原料は石灰岩、天然の鉱物です。石灰岩ははるか古代に海中生物の遺骸が堆積した物で、大理石や鍾乳洞などを形作っています。石灰岩は採掘された後、まず生石灰「酸化カルシウム(CaO)」に焼成され、これに水を加えて消石灰「水酸化カルシウム(Ca(OH)2)」に変化させます。しっくいはこの消石灰に海草糊や“すさ”と呼ばれる補強材を加えて練り、壁に塗ります。その後、「水酸化カルシウム(Ca(OH)2)」は空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して、水分が蒸発し、もとの「炭酸カルシウム(CaCO3)」に戻るというしくみです。

糊成分や補強成分は乾燥、硬化後の壁のひび割れや剥がれ落ちを防止するために加えられています。最近では、あらかじめ混合されたものや生石灰から消石灰を作る過程のペースト状のものを改良した生石灰クリームなども市販されています。また、現在は取り扱いやすくするために、海草糊以外に合成樹脂系の糊も使用されています。使用前には製品安全データシート(MSDS)を取り寄せるなどして、中身の確認をするようにしましょう。

なお、消石灰「水酸化カルシウム(Ca(OH)2)」はアルカリ性で、その粉じんは大気汚染物質でもあります。グランドのライン引などにも使われていますが、粘膜への刺激も強く、直接肌につけると皮膚炎の原因にもなりますので注意が必要です。