コラム - 無垢床材の遮音性能評価とは 

日本で本格的なマンション建設が始まって30数年がたち、マンションの建て替えやリフォームの需要が多くなってきています。マンションでは音の問題がトラブルの原因となることが多く、最近では管理規約で床の防音性能を定めるところも増えてきました。

もく(木)の会のリフォームでは、よく床を無垢の木で貼りますが、マンションの床リフォームに無垢の木を用いることで防音性能に変化があるのかないのかが気になるところです。

1.音についての基礎知識

音は空気中や固体中を波で伝わっていきます(空気音と固体音)。この波の振れ巾が大きいほど音が大きくなり、周波数が大きくなると音は高くなります。普通に聞く音は様々な周波数の音が合わさった複合音です。

集合住宅での音の伝わり方には非常に多くの経路があり、実験でこれをすべて評価することはできません。特に、最も気になるとされる給排水設備や窓サッシの開閉で生じる音、または人の話声についての実験的な評価はなされていません。さらに、音は人によって、不快に感じる大きさや高さが異なるということも考えておく必要があります。

現在、等級を決めることができるようになっているのは「軽量床衝撃音」(表示例:LL-45)(※1)と「重量床衝撃音」(表示例:LH-50)(※2)です。これらは床に直接与えられた衝撃が、床(固体中)を伝わって階下に聞こえてくる音です。

一般に軽量床衝撃音は床の表面仕上げ材料の種類によって変わることが多く、じゅうたんなどの柔らかいものほど小さくなる傾向があると言われています。このことから最近のマンションではフローリングの部屋が増えたことがトラブルの原因になっている可能性が指摘されています。一方、重量床衝撃

音は床の基礎構造であるコンクリート部分の厚さの影響が大きく、床の仕上げにはあまり左右されないと考えられています。

音は、共鳴などで大きくなったり反射したりもしますから、実験室の形と実際の部屋の形が違えば、聞こえる大きさは変化しますし、家具の配置等でも変わるでしょう。また、もとの衝撃音が大きければ、当然聞こえてくる音も大きくなります。つまり、実際の生活条件にあったモデル実験をすることは非常に困難です。実験は一定の条件で同じ大きさの衝撃を与えた時の遮音効果を比較し、よりよい防音構造がどちらであるかを判断するための評価です。

(※1)軽量床衝撃音(LL-*)とは
スプーンを落としたり、イスを引いたり、スリッパで歩いたりしたときなどに発生する音のモデル
金属棒を連続的に落とすタッピングマシンを用います

(※2)重量床衝撃音(LH-*)とは
重いものを床に落としたり、子供が飛び跳ねたりしたときなどに発生する音のモデル
タイヤを1回落とすバングマシンを用います

*等級表示の数字は音の大きさ(dB:デシベル)を表します。人の耳は10dB増えると2倍に20dB増えると4倍に聞こえるといいます。軽量床衝撃音は500Hz、重量床衝撃音は63Hzの音が聞こえる大きさで代表しています。等級は測定した騒音レベルを、周波数に対する基準曲線と対照して評価します。

L-45 L-50 L-55 L-60 L-65
軽量床衝撃音 聞こえるが、意識する事はあまりない 小さく聞こえる 聞こえる よく聞こえる 発生音が
かなり気になる
重量床衝撃音 小さく聞こえる 聞こえる 発生音が気になる 発生音がかなり気になる うるさい
軽量床衝撃音発生装置

軽量床衝撃音発生装置

重量床衝撃音発生装置

重量床衝撃音発生装置

2.防音性能試験

音徳島県立農林水産総合技術センター森林林業研究所の簡易音響試験装置をお借りして、住宅性能評価機関「遮音測定の結果による音環境に関する試験ガイドライン」付則2,3に準拠した方法で試験を行ないました。この簡易音響試験装置はJISや住宅性能評価の基準となるサイズよりも小さいものですが、傾向はつかむことができます。

評価には、床を仕上げた時の騒音レベルから仕上げる前のコンクリートスラブのみで評価した値を引いた低減量を用いました。低減量が大きいほど遮音性能が高いということになります。(住宅性能評価ではこの低減量を基準にした区分が設けられており、5dB以上違うと等級が変わります。)

3.結果

複合フローリング仕上げでLL-45、LH-50等級を取得した乾式二重床工法のメーカー防音システム(大建工業㈱製DADスペースSP50S)を用い、表面の仕上げ材を無垢の桧(15mm厚)にした場合を評価したところ、評価の中心となる250~500Hzの中低音域で無垢材の低減量が大きくなりました。

また、もく(木)の会で施工した経験のある、複合フローリング床に置き床として無垢の杉(30mm)を置いた場合についての評価では、もとの遮音性能を著しく低下させるということはありませんでした。

4.まとめ

今回の実験では、樹種や厚みの差も評価しましたが、はっきりした結果を得ることはできませんでした。また、防音システムの部材が異なると、表面仕上げ材だけの変更よりも性能への影響が大きくなりました。

これらの結果から、表面仕上げ材だけを無垢材にする場合の防音性能への影響はあまり大きくないと考えられます。