空き家を活用して「私のスープ」に

 2019.8.4

糀(こうじ)と鰹節や昆布のだしの芳醇さをベースに産直の季節の野菜を煮込んだスープや一杯ずつ点てるコーヒーをゆっくり味わってもらえる、若い女性ひとりでもゆったりした雰囲気の中で心安まる時間を過ごしてもらえる、というコンセプトの小さな店「私のスープ」ができあがりました。

この店は長年私たち「もく(木)の会」の活動を支えてくださった購読会員の方からの依頼で、2年間空き家になっていた住宅を借りて1階を店舗に、2階を住居にという形で改修したケースです。

当初、鉄筋コンクリート造のマンションの1階テナントスペースも検討しましたが、キッチンや内装にずいぶんコストがかかりそうでしたし、店のコンセプトとも距離がある感じがしてお薦めできませんでした。

その後選んだ物件は、昭和46年に建てられた普通の住宅で猫好きの方が暮らしておられたとのことで、土壁には猫のひっかき傷も見られましたが、全体として良好な状態で、キッチンなどはそのまま使うなど改修の範囲を押さえることができるものでした。


改修に当たっては住まいと店舗へのお客さんの動線が交差しないようにする、お客さんがキッチンには入れないように間仕切る、という保健所の指導に基づいて、勝手口だったところを店舗の入口に、客席とキッチンの間には間仕切りを設けました。太さ6㎝ほどの北山丸太をその間仕切りの一部に使い、清潔感と柔らかさを表現しています。手前の部屋は
ふすまなどの建具は入れ替えましたが、壁やタタミは現状のまま、奥の部屋には杉板を壁に貼り、床には厚さが3㎝の杉板を置いています。

京都市では北山丸太を含めて京都産の木材を使うことに対して助成が行われます。今回使った床や壁の杉板、キッチンと店舗の入口の境に使った細い丸太はその助成制度を活用しました。外部の看板にも助成制度を利用することができ、京都市の京北地域のクリの板を使っています。今回は目的に適した物件を探すところからお施主さんと話し合いを重ねながら進めることができ、限られた予算を有効に使うことにつながりました。

賃貸物件なので原状に戻して退去する部分と、貸し主に了解を得て原状に戻す必要がない部分とを確認しながらの改
修でしたが、貸し主の理解もあって、無垢の板のカウンター席と杉の床が柔らかくあたたかい雰囲気を醸し出すなど目指したような空間にすることができました。壁には漆喰を塗ることを考えましたが、設備や什器などにかかる費用など全体のコスト配分を考え、水性ペイントでコストダウンを図っています。

「私のスープ」は阪急桂駅から徒歩5分です。おいしいスープとゆったりした空間を味わいにお出かけください。

ところでみなさんは全国の空き家率をご存じでしょうか?13.5%にもなっています。大阪では14.8%、京都では13.3%、これは平成25年の総務省の統計なので5年経った現在はもっと増えている可能性も高いと思われます。

そんな事情から京都市は空き家活用の対策に力を入れています。「空き家の活用・流通等を促進することを目的に、空き家の劣化状況の診断や活用・流通等に関する助言や提案等を行う専門家(建築士及び地域の空き家相談員)を派遣する
制度」もあり、今回はこの制度を使って状態が把握されていたものでした。

この4月からは宅建業法が改正され既存住宅状況調査技術者という資格者証をもった建築士が建物の状況調査を行うということが推奨されるようになります。新築物件ではなくても、質のよいモノを弱いポイントを補強しながら使いこなすということが今までよりも安心してできるようになります。もく(木)の会でもそのようなご要望にお応えしたいと考えてい
ます。

 

[DATA]

分類: 店舗・施設。 設計/施工: KS(ケイズ)設計室