築50年、さらに50年先まで!
京都市右京区京北町は北山丸太の生産地です。手入れの行き届いた山に囲まれた美しい風景が拡がっています。今回ご紹介する住まいのご主人も北山丸太の生産をされています。空き家になっていたこの住宅は昭和42年に建てられたものでした。第1回目の打合せの際に、「現在の生活にふさわしい間取りや設備に替えて定年退職後の住まいにしたい」とたくさんの資料をまとめたものとプランを奥さまから見せていただきました。バリアフリーであることはもちろんですが、4人の子どもさんが将来それぞれの家族とともに帰省されたときのこと、娘さんが出産して里帰りされたときのこと、農作業に必要なスペースのこと、京北の寒さに備えることなどなど、今までの生活の中で課題になっていたことが具体的に記されているのと同時に、教員として忙しい日々を送っている現在の生活を終えて、時間の余裕ができたときの夢も盛り込まれた楽しい要望でした。
改装前の台所
これらを実現するために33坪あまりの平屋の住宅のうち二間続きの座敷は古いままの良さを残しました。
水廻りや個室だった部分に増築11坪を加え、ダイニングキッチン+居間とサンルームとしました。空間のつながりも確保するために、アイランドキッチンを取り入れたダイニングと居間の間には耐力格子をいれています。桧を相欠きという形で組むことで耐震的にも有効です。その上部にはロフトの手すりが見えますが、この手すりは直径6㎝の北山丸太を使っています。角材とはちがう柔らかさが梁を見えるようにしたこの空間にマッチしています。
ダイニングキッチン+居間とサンルーム
広い小屋裏だった一部はロフトとし、平面方向にも、ロフトと居間との縦方向にも一体感を充分に取ること、併せてご主人が生産されている北山丸太も今までの使われ方とはちがう使い方をして、和室離れの進む若い人たちにも丸太という素材が喜ばれる提案をするということを設計のポイントとしました。
小屋裏をロフトに
居間の反対側、キッチンの奥は小上がりと呼んでいる床の高さを40㎝上げたタタミ敷の部分です。床を上げた部分を引き出し式の収納にし、この場所で行われるパソコンやミシン、アイロンを使う家事のサポートにもなるようにしています。
出節の丸太が据えられているのはサンルームです。寒い冬の間苗を育てたりストーブの薪を積んでおいたり、
洗濯物を干したり、また汚れた作業着を脱いだりというように家の中と戸外とをつなぐ中間ゾーンとしての役割を果たします。この写真では、枝に干し柿が吊されていますが、竣工後伺ったある日は、じょうろや作業着なども掛けられていて楽しい雰囲気を醸し出していました。
地震に対する補強や断熱性能を上げるために工夫や費用が必要でしたが、築50年の家が今の時代にも快適に過ごせる住まいに甦りました。奥さまが定年を迎えるまでの数年は丸太の生産に携わっている息子さんのご家族がここで生活される予定です。若い世代がこの新しさと古さの良さが共存する住まいでどのような生活を展開して行かれるのか、私も楽しみにしています。