小さな子供・高齢者・身障者が共に集う 素晴らしい女性の熱い思いから、生まれた空間

 2019.8.4

12年前、奈良県桜井市生田という地区で、いかに高齢者が楽しく前向きに暮らすことができるか?いつも自分に問いかけておられる女性に出会いました。そして彼女が立ち上げた桜井市で初めての小規模多機能介護施設に杉の家具を設置させていただきました。

そのご縁で10年後、彼女の大きな目標である、共生型施設の新築工事のプランニングを依頼されました。小さな子供たち、高齢者の方々、身障者の仲間が、ともに集い、お互いを尊重し、一緒に楽しめる、そんな場所にしたい。そしてそこは、脳と心と体を癒す気持ちのいい空間でありたい。そんな施主の思いを形にすることから始めました。

玄関ホール
床は、クリのフローリング、壁は海藻のギンナン草を焚いて海苔とした漆喰壁。建具は大樹をイメージしたアイアンの造形

多目的ホールは、主に認知症予防の運動室。すべての人はお母さんのおなかの中で命が育まれる。そこはきっと、まったりした、まあるい空間に違いない。すぐにアール(曲面)の明るい壁にしよう、と決めました。
床は、杉のフローリング張。壁は漆喰壁。明るい朝日が差し込む斜め天井は月桃紙張り。それを支える檜の丸柱。
まるで部屋の中央に鳥居があるみたいですね。と言われました。明かりは、天井を照らす間接照明で半分の光を下におろし、セミナーなどで机上に照度が必要な時は、配線ダクトのスポットライトで確保します。間接照明のLEDライトは硝子に特殊なカットがほどこされ、眩しくないものを採用しました

デッキスペース
床レベルを合わせた杉のデッキは2M近くあり、前に広がる藤棚や、季節にはクリスマスローズが咲き誇る散策路、
7月から始まる森の幼稚園の子供たちが走り回る様子に、お年寄りたちはきっと心癒されるでしょう。

森の幼稚園スペース
檜の丸柱に囲まれた畳スペースにつながる食堂の床は、子供たちが裸足で過ごす、杉のフローリング。
腰壁は杉の板張り。いくら子供たちがぶつかっても大丈夫。しっかり受け止めてくれます。
壁はもちろん漆喰塗りで、天井は月桃紙張り。杉で作ったベンチからきっと子供たちは飛び降りるのでしょうね。

キッチン
杉のキッチン。森の幼稚園の若いお母さんに、無垢の木の良さを味わって欲しい。そんな思いで制作しました。

建具
杉の建具。通所者さんが自由に入っていい場所は、青の彩色。スタッフの方にお声をかけて入るお部屋の建具は、赤
の彩色。ベースは米ぬかオイルに採色はミルクペイント。

こういう施設に自然素材を使うことは、メンテナンスの面からあまり良しとされていませんでした。車いすも通る多目的ホールの床に、人に優しいが柔らかい杉を提案したとき、「床が傷だらけになっても、通所者さんにとって良いのでしたらやってみましょう」。の一声で採択。施主の心意気に感動した瞬間でした。
工事が竣工するまでの間いろんなことが起こってきましたが、一貫して「大事なのは、通所者さんにとって居心地の良い場所にすること」。ぶれない施主の思いに後押しされ、竣工を迎えることが出来ました。感謝です。  

[DATA]

分類: 店舗・施設。 設計/施工: 高橋空間工房