屋根裏収納に続く家具階段

 2020.1.28

屋根裏物置がある木造平屋建ての一戸建て住宅です。屋根裏物置に上がるためには、天井収納式のはしご状の階段がDKに備え付けられているのですが、簡易なもので不安定なことから、安全に昇降できるよう「階段」を取り付けたいというご相談がありました。
「屋根裏収納」というのは、文字通り屋根と天井との間にできた空間を利用した収納スペースです。
デッドスペースを利用した収納ということで、住宅ではよく設置されているようですが、この屋根裏収納が成立するには建築基準法で以下の条件が定められています。
・床から天井までの高さが140cm未満であること
・面積が下の階の2分の1までであること
上記の条件を満たしていれば、屋根裏収納部分は「階」としてみなされず、床面積にも算入しなくてよいとされており、この建物はこの条件に付いては問題ありませんでした。ところが・・・
この地域の住宅はさらにもう一つ条件が決められていました。それは「階段は固定してはいけない」というもので、今回のご要望の通りにちゃんとした階段を設置してしまうと、建物は「2階建て」となってしまい、「2階建て」に向けて決められた建築基準法の内容に合致させないと、違反建築物になってしまうという問題が発生します。そこで、階段を固定で設置せず、移動できる「家具」を階段として使うことにしました。

まず、階段の位置ですが、1階の間取りと屋根裏の状況に加え、天井裏の構造材の位置も考慮して、屋根裏に上がるのに最も支障のない位置に決めました。それから、屋根裏に上がるために必要な段数を割出し、家具の形と大きさを決めていきました。当初棚板は可動式で考えていましたが、かなりボリュームのある家具になるので箱の強度確保のために、依頼主と相談の上で棚板は固定することにしました。上りやすい階段を希望されたのには、今後の自分たちの高齢化のことを考えられてのことでしたので、落下防止の配慮として手すりを2本取り付けています。

家具は手すりも含め、全て杉の無垢材で製作し、「キヌカ」という米ぬかを原料とした塗料を塗りました。階段1段分の小さな箱は、基本は正面から小物を収納する形ですが、隣の部屋との間の扉をつぶす形で階段を設置したので、扉を開けると、隣の部屋からも棚に物を入れられることから、一部は隣の部屋から利用する掛け軸の収納用にしています。廻り階段の最下段は奥行きが深くなることから引き出しを組み込むなど、随所に工夫を施しました。
製作した家具職人は「人が乗って使う家具は初めてなので・・」と、強度面でいろいろ配慮してくれたようです。依頼主からは「きれいな杉材で上りやすい階段ができただけでなく、収納も増えて嬉しいです。」という感想をいただけました。