築160年の茅葺き、おおらかな空間を取り戻す
今回ご紹介するのは、桁行7間半(14.9m)梁間6間(11.6m)入母屋造り茅葺き屋根を瓦形トタンで覆った元林業を営んでいたという住まいの改修です。今回の工事に当たって調査した時に安政4年と書かれた棟札が見つかりました。安政4年は「安政の大獄」などで知られる江戸末期、西暦1857年に当たるので、160年の歴史を持つ住まいということになります。その時代その時代での生活に合うように手を入れて丁寧に住み続けておられ、昭和の中ごろにはドイツ壁の外壁をもつ応接室が作られたり、合掌造りの小屋組の天井を兼ねている床の下にさらに天井が貼られたりしていました。また「田の字型」の大きな間取りの一画が女中部屋や納戸という小部屋に区切られているということもありました。
今回の改修は、
①周囲を緑に囲まれたロケーションを活かして内部と外部が一体になったかつての伸びやかな間取りと生活をかなえること。
②京都市の一番北に位置し雪も深いこの地域、右京区京北地域の寒さにも備えると言うこと。
③別棟に設置されている浴室をこの母屋に設置しておじいちゃんの生活が楽になるようにする
などを目的の中心に据えました。
寒さに備えるということで小屋裏ややり直した外壁部分には断熱材を入れサッシはペアガラスを使いました。薪ストーブを使い、地産地消のエネルギーで快適に暮らせるようにしています。
また、初期の打合せのころに聞かせていただいた奥さまの言葉も大きな指針となりました。それは「この家に伝わる古いものを私たちの代で用済みにしてしまうのではなく、形や用途が変わってもいいので使い続けたい。そうすることでこの家を守ってきたおばあちゃんも喜んでくれると思う」という言葉でした。
古くから使われてきた囲炉裏や堀こたつは少し手を入れ元の場所で現役です。お正月には大勢の親戚が集まり、炉を囲み話が弾むとのこと。
洗面所では鏡台の鏡を壁付の鏡とし、床の間の違い棚の筆返しを化粧棚として使いました。
今まで使われてきた建具はもとより、工務店の方が手を入れて持ってきてくれた古建具は、この住まいで新しく場所を得たり開き戸になったりしました。令和の時代の改修ではみんなが集まる居間には栗のフローリングを寝室の床や新設の天井には杉材を使い、居間にも寝室にもキッチンにも緑を取り込み開放的にしました。次の時代の改修は、どのくらい先にどのように行われるのでしょうか?
住宅の寿命が短いといわれる現在ですが、160年の時間を受け止めてきたこの住まいの長い流れのひとこまを担えたことに感謝しています。