記憶とともに住み継ぐ家
Mさんは80才半ば、娘さんご夫婦と一緒に住まれることになり、今まで住んでおられた家を解体し、二世帯住宅を新築することになりました。
設計の窓口は娘さんご夫婦で、Mさんが気持ちよく、安全に、そしてご自身がつくりあげた家庭の思い出を感じられるような家をつくろうと打ち合わせを重ねました。
2世帯のつなぎ目
Mさんは見守りがあれば、食事以外のことはご自身でなさっている状況です。さりげなく、しかし、いつも見守っていたいという娘さんの思いを形にしたのが、L型に配したそれぞれの世帯の居間です。娘さん世帯の居間で家事をしていても、ちょっと視線をあげることでMさんの様子を見ることができ、Mさん側からも家族の雰囲気を感じることができるようにしました。
それとは反対に玄関の配置はそれぞれの世帯の独立性を確保する配置にし、Mさんのところへほかの娘さんたちが訪ねてこられてMさんとの時間をゆっくり過ごすことができるよう、また活動時間帯がちがう娘さん夫妻の生活を今までと大きく変える必要がないように工夫しました。
新しいダイニングと古い記憶
また、高齢の方が新しい住まいで暮らし始めるときに感じるとまどいを最小限にすることが、新しい生活がスムーズにいくために大切なことです。そのため解体をする際に建具や欄間・床柱・床板などを大切に取っておきました。
Mさんの寝室や仏間にはそれらのものを少し切り縮めて新しい部屋の寸法に合わせたり、建具のすべりをよくするなどの工夫をして再利用しました。子どもたちを育て、ご自身が家業を切り盛りされた日々への記憶を室内空間からも感じ取っていただけるものと思っています。
さらに、家の中の部屋間の温度差(ヒートショック)が少なくなるようにパッシブソーラーシステムの「OMソーラー」を採用しました。以前設計した娘さんの友人の家でも体験されたシステムで、太陽光で暖まった空気を床下に送り込み基礎本体に熱を蓄え、家全体を暖める方法です。
「家業が忙しくて、忙しくて・・」と昔のことを笑顔でお話しくださるMさんが娘さんやお孫さんとの新しい暮らしを古い住まいの記憶とともに快適に過ごしていただけるように願っています。