伝統工法で建てた桂の家
Sさんのご要望は伝統的な竹木舞をかいて土壁でつくった家、そして安全性の高い自然素材を使った家をということでした。Sさんのお父さまの住まいを10年ほど前に設計させていただいたことが直接のきっかけでしたが、研究熱心なご夫妻がいろいろと情報を集める中で「もく (木)の会」のホームページも見て下さって住まいに求めるものが同じということで依頼して頂きました。
幼稚園に通うお兄ちゃんと生まれたばかりのお嬢ちゃん、そしてご夫婦の住まいとして、考えたものです。土台には桧柱や梁は杉を使い、瓦屋根を支える梁には粘りのある地松を使いました。大黒柱は18㎝角の杉です。内装は漆喰と和紙クロス、杉の厚板を使っています。
コーヒーが大好きで仕事が終わって子どもさん達が寝た後は、自分の小さなコーナーでゆっくりとくつろぎたいというご主人のためには2階の子どもコーナーに隣接して書斎を設けました。
小さな子どもを育てながらいそがしい毎日を送っていらっしゃる奥様からは、ご実家から届く土付のとれたての野菜の置き場と台所、台所と洗濯などの家事の動線がコンパクトにまとまっていること、ふだんは広々と子どもたちが遊べて、なおかつ不意の来客にもあわてず対応できるようにしたいというご要望があり、土間を広くとった家事コーナーや食堂と居間の間に引き込んでしまえる間仕切りをつけるというようなことを提案させていただきました。
予算の関係で間仕切りは将来扉だけをつくれば入れられるように床のレール、鴨居の溝を準備してあります。2階の子ども室も竣工の時点では間仕切りがありません。おにいちゃんと妹さんがふたりで存分に遊べる子ども時代を過ごしたあと、間仕切りをしていこうということです。
できあがった時点が100%の完成形である必要は住まいにはないとSさんご夫妻も私自身も考えています。
しっかりとした構造体をつくっておけば、緩やかに変わっていく家族の生活に合わせてたし算をしていく、あるいはひき算をしていくことで楽しみながら、住まいも成長していくことができると思います。
幼稚園児だったお兄ちゃんは小学生に、お乳を飲んでいた妹さんはお散歩が好きなかわいい女の子になられました。
この住まいもどのように成長していってくれるのか、設計者として楽しみにしています。