昔ながらの工法を取り入れた明日香の家

 2013.7.21

奈良県明日香に、施主の要望でできるだけ接着剤を使用しない木造住宅を建築しました。

昔の工法にもどり、純度の高い家づくりを目指しました。この住宅で使用した接着剤は床下の給排水のパイプの接着剤、外壁アルミサッシのコーキング、浴室とキッチンのタイルの接着剤だけです。その他には、木工ボンドやウレタンボンドも一切使用していません。

玄関 ― 赤いアールの壁

まず玄関を入ると、この家のシンボル的な赤いアールの壁が出迎え、正面のFIXの窓からは裏の公園の大木が見えて空間の広がりを感じます。

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cs_n019asuka01この壁は木摺(きずり:左官壁の下地の一種で竹の替わりに薄い板を打ち付ける)でアールのラインの下地を作り、その上に下塗を何度か重ね「山の辺」の赤土で仕上げました。赤土に藁、砂を混ぜ水に練りこんだものを壁に塗り、半乾きのうちに横に平行に5mmのスリットを入れ、そのスリットに添って角度をつけて壁土をそぎ落としていきます。
その後、完全に乾燥する前に角又(つのまた:海藻の一種で昔から左官材の接着剤として使われていたもの)を煮た汁を壁面全体に吹き付け固めました。版築(はんちく:土をある一定の幅で下から何層にも塗り重ねていくと、その土の層がきれいな模様のように見えるような工法)のイメージに近づけるために、左官の世界で有名な久住章氏に指導を受けた新しい工法です。

土間は『とぎだし』で土とセメント・小石を混ぜて固め乾いたら水をかけながら磨いていきます。今回は黄土セメント、蛇門石を入れました。巾木は『洗い出し』にしました。玄関の床は杉のフローリング、天井は杉の柾目板貼りです。アール壁以外の壁は大津壁で惜しみなく人の手をかけた手法です。竹小舞下地に下塗し、チリにのれんを施し、色土と消石灰を練り合わせて用います。

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玄関ホール建具

すべての建具は桧材を使用し、くぎと米糊のみで製作しました。塗料は天然オイル塗りです。
ホールからリビングへの建具は縦格子の引き違い戸で、ガラスは下がすりガラスでだんだんに薄くなり上にいくと透明になっています。

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ダイニング、リビングの床は節有の杉フローリング。天井はボンドを使わないために900ピッチに桟を通して上から杉板を止めていきました。家具のダイニングカウンターテーブルは桧製ですが、大きい上に米糊とビスだけではどうしても目違いや空きが生じるので、ボルトを使って締めることで対応しました。

キッチンは従来なら無垢の木で製作しますが、奥様の希望でメーカーのシステムキッチンにし、バックの収納家具は桧で製作しました。
照明器具のペンダントは、玄関の赤土に合わせて八ガ岳の作家さんに作ってもらいました。

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廊下収納

cs_n019asuka05廊下の片面には浅い収納をとり、桧の舞良戸(まいらど)を4枚作成しました。床の仕上げは洗面の床だけ天然のオイルを塗りましたが、その他すべての床はさらしで作った袋に炒った糠(ぬか)を入れてみんなで磨きました。

今回の工事に関わり、改めて昔の知恵はすごいと感心しました。

[DATA]

分類: 新築住宅。 設計/施工: 高橋空間工房