林住期の住まい
林住期とは
五木寛之氏の著書に出てくる言葉で、50歳から75歳をさす。
自分の今までの生き方を振り返り、これからの豊かな人生を考えるときのこと。
住んでいる家を改修するか、建て替えるか相談に来られたSさん御夫妻。住まいの要望をお聞きしていると、全面改修となり、費用がかかる割には希望の家にするのは難しい。考慮のうえ、建て替えることになりました。
Sさんの要望は次の通りです。
- 自然素材を使用した風・光・緑が感じられる住まい
- 膨大な書籍を整理できる書庫があること
- 東南の心地良い場所に書斎を設けること
- 愛着のある家具や骨董をふさわしい場所におきたい子供の作品(タピストリー)を飾りたい
- 物を適切にかたづける収納スペースを設けること
- 機能的で美しい台所
- 独立した子供たちが来たときのゲストルーム
- 近所の人たちが集まれる縁側のある居間
- 既製の仏壇に代わるそれを象徴する場を設けたい
- 近隣の住まいへの配慮―近郊住宅地で緑も多く敷地もゆったりとしているため、建て替えにより周辺の環境を阻害しないよう日影・視線への配慮をする
さまざまな要望をお聞きして、月1回ほど打ち合わせを重ねながら、プランを整理し設計を進めていきました。
10年前に蒜山にSさんの山荘を設計しました。その時は床、壁、天井は杉で仕上げました.山荘にいくとぐっすりと眠れますとのお話です。もしかしたら、杉のせいかもしれません。でも、今度は山荘とは雰囲気を変え、白い漆喰の壁にしたいとの希望です。
居間
床はさくらフローリング張り、壁は漆喰、天井はクロス張りにしました。居間は吹き抜け、2階の廊下から、見下ろすようにしました。2階の廊下の障子を開けるとひとつの空間になり、光と風が吹き抜けていきます。居間の床は床暖房を設けました。
居間の北側に和室,襖を開けるとひとつの空間、大勢の人が集まれる場です。床の間は吉野で手に入れた欅の板を張りました。年月が経つと良い色艶に変化していきます。今まで使われなかった敷地の北側の通路は、和室から眺められる坪庭にしました。南から北へ風の道ができました。南の庭は今まで植えられた樹木を出来るだけ残し、住みながら手入れをする予定です。キッチンは檜で製作、高橋空間工房に製作を依頼しました。南東の気持ちの良い場所、料理好きのSさんはとても楽しそうです。
仏壇
仏壇は和室の壁にアルコーブを設け、素敵な仏さまを飾りました。Sさんがパリに行った時手にいれた仏像です。いろいろと検討して、娘さんの作品は階段室の壁に飾りました。明るく華やかな雰囲気の階段室になりました。
書庫は台所の北側と2階の書斎の北側に2箇所、設けました。膨大な資料と書籍は何とか解決しました。納戸も1階と2階に設け、壁の仕上げは桐の板を張りました。物をどこに置くのか、思い出の品々をどこにおくのか、難しい問題です。家具の寸方を測り、居間、廊下、書斎とふさわしい場所を設定し、Sさんご夫妻の意見を十分にお聞きして、協議しながら設計をすすめていきました。
住まいは施主との共同作業です。エネルギーがいりますが楽しい仕事です。竣工すると、今までそこに建っていたかのように周辺の街並みにふさわしい住まいになりましたSさんからは、住まいのどの場所も心地よい広さでとても快適ですと連絡がありました。
今後、ますます、素敵な住まいになっていくことを願っています。