山の上の古い住まいのリフォーム
数年前から夫の生家である奈良県の寺の古い庫裏で暮らしています。標高350m超のため夏は冷房不要ですが冬は厳しい寒さです。谷底から吹き上がる隙間風を防ぎ、大きな段差だらけの床をフラットにする、老後を見据えた暮らしのためにリフォームをしました。
<主なポイント>
- 寒さ対策。壁、天井、床に断熱材を施工し、足触りが良いように床には無垢板を使う。サッシは断熱性の高い樹脂サッシを使う。
- 差し鴨居が低いため(床から1.7m)背の高い人は家の中をくぐって移動しているのを、床を下げて差し鴨居までの高さを確保する。家じゅうにある床の段差をなくしてフラットにする。
- 北側に広がる風景を楽しめるよう、居間北側に大きな窓とバルコニーを設置
- 物置だった厨子二階「つしにかい」(高さが低い屋根裏空間)を居室にする。
- 玄関戸、簀戸、ガラス障子など愛着のある古い建具を再生して使う。
- キッチンは多人数で作業でき、古建具と調和するオールステンレスのL型キッチンを製作する。
- 古い石垣の上にある部屋を減築して、コンクリートのデッキバルコニーを新設。バーベキュースペース兼エコキュートなどのバックヤード。
室内は大きく変わりますが、外観は庫裏のイメージを損なわないよう、外壁に杉の腰壁を張り、既存の土葺瓦を桟瓦葺きとして再利用しました。特に玄関周りは古い玄関戸に洗いをかけ、そのまま活用しました。
生活の中心となるリビングダイニングは田の字型の4畳半と6帖、縁側を一室にして広い空間にしました。床板はカバサクラ、壁は珪藻土のこてムラ仕上、天井は杉の白太張りです。
玄関やホールの天井は杉の源平で、寝室や水回りの床は杉の上小とし、寺の本堂につながる廊下は桧の無地と、特長を踏まえて使い分けています。室内の床板の保護塗料はキヌカを塗りました。
床を下げたため、寸足らずとなった既存建具には杉で背継ぎしました。足継ぎは6寸が限界で、上にも足しました。幅が足りない建具は左右も継ぎました。建具屋さんは「ここまで継ぐのは初めてのことで不安やった」そうですが、面影はそのままで新しい空間になじんでいます。
厨子二階は天井が低いため、少しでも天井高を確保できるように床の丸太梁を現わして杉の床板を張りました。南北に風が抜け、小窓から北の木々、南の蔵のなまこ壁が望める楽しい部屋に生まれ変わりました。
大工さん曰く「洞窟みたいでワクワクする」空間です。帰省する娘家族や民泊で宿泊する修学旅行生が、楽しんでくれれば、と思います。
これから冬本番ですが、夜中のトイレや朝の着替えの寒さを感じなくなり、風景豊かで静かな山のくらしが一層快適になりました。
[ 設計監理:設計室buuhuu-u 青木順子 ]