癒しで迎える病院
私たちにとって病院とは?
日常生活を送る中で、身体や心に支障を感じた時に訪れる場所であり、決して心軽やかではなく、気持ちは重く不安で一杯でしょう。では、迎えてくれるその場所がどんな所であれば訪れる私たちの、心が少しでも和むのでしょうか?
そういう患者さんの気持ちに寄り添い、優しく包み込み、そして全てのスタッフがそのことを考え常に行動しておられる。その思いが病院にアートを取り入れる取り組みとなり、癒しの場となる空間づくりに関わることになりました。そんな事例を2つ紹介します。



欅のレリーフアート

何十年も病院を見守ってきた欅の大木
1つ目は・・・
2025年3月に開院した耳原鳳クリニックです。最初にこの地で小さなクリニックとして誕生してから4棟目の病院です。新しい病院のコンセプトは
『紡ぐ・撚る・織る・包む』
その中心が何十年もこの地でみんなを見守ってきた欅です。工事に先立って伐採した欅を『伝承の樹』として、新病院の正面玄関の壁にレリーフアートとして残すことになりました。具象的な欅ではなく、見てほっとするような、ファンタジーな欅を目指しました。
左官の壁画で表現しようと考えました。本来は漆喰で、鏝絵をイメージしたのですが、漆喰は柔らかくもろいので、白セメントに顔料を混ぜて微妙な色を出し、ファンタジーな欅を表現しました。固いセメントのイメージはなく優しい、ソフトな欅になりました。
デザイナーさんの素敵な原画を、左官職人さんの見事な技術で表現して頂きました。改めて、新しい感覚と左官の技に感服しました。
腰壁と枠は檜の無地にミルクペイントで塗装しました。檜の木肌は消えましたが、無垢の木でしっかり守っています。介護や保育等々、地域に根差し病院を支える7つのグループがあります。そのグループの紋を欅の丸板にレーザーで焼き付けました。


2つ目は・・・
10年前、同法人の耳原総合病院の新築の時に、霊安室の壁面を土壁で表現しました。
大切な人との最後のお別れの時間。今までのような冷たくて暗い部屋ではなく、心和む優しい空間であって欲しいという想いからです。

霊安室 茜色の壁面
奈良県山野辺の道の赤土に、小石・すさ等を混ぜ、立体的にそれぞれの筋で山のように凹凸を付けながら仕上げて、陰影が付くように工夫しました。花台と壁面を照らす照明は、檜の無地で製作しました。
茜色の夜明けを表現し、旅立つ方も、見送る方も新しい始まりであってほしい。そんな願いを込めました。
[設計・施工 高橋空間工房 高橋定子]

赤土を塗り陰影を付ける

桧で作った花台



