自然素材あれこれ - 桧「日本人の文化を担ってきた木」
桧の語源は「火の木」で、太古ではこの木をこすって火を得たということです。杉は山の迫(さこ)[谷の下の方の湿気の多いところ]によく育ちますが、桧は中腹から尾根筋でよく育ちます。有名な天然林は、長野県木曽、岐阜県裏木曽および飛騨地方です。ことに木曽は尾張藩が特別に保護した事(桧一本、首一つ)で知られています。人工林では、三重県尾鷲、奈良県吉野、静岡県天龍川流域、和歌山県一円などが有名です。
辺材は淡黄色、心材は淡紅色で、杉のように辺材と心材の境界ははっきりしていません。特有の芳香と光沢があり、装飾材として高級な用途に使われています。心材は虫や腐敗に強いため、土台や浴槽、浴室まわりに使われます。しかし、桧は高価な材のため、最近ではラワン合板に厚さ0.2mmほどの薄い桧を貼った天井板や集成材の上に1.5~2mm程度の桧板を貼った化粧貼り柱が多く出まわるようになってきています。
桧が日本の文化を担ってきた例は、枚挙にいとまがありません。古来神社仏閣に使われてきたことはあまりにも有名です(伊勢神宮や法隆寺など)。また、仏像の歴史を見ると、奈良・天平期の仏像は金銅あるいは乾漆が多く桧はその心木として使われました。平安期に入ると桧の一木造り、藤原・鎌倉期には殆どの仏像が桧の寄木造りとなりました。その他、桧舞台、桧皮葺、桧扇などがあります。ただ、現在は寺に使えるような大材が少なくなり台湾桧が使われることが多くなっています。そこで、文化財のための森を保護する運動が始まりました。