住まいのなるほど連続セミナー 「木の良さを住まいに取り入れる」第2回 1月15日(日)「森林と木のリラックス効果」

セミナー 2006.1.15

第2回 森林と木のリラックス効果

「森林と木材の気持ちいいを科学する」宮崎良文 氏((独)森林総合研究所・医学博士)   「住まいに木を取り入れる~実例紹介~」   中川倶子・山本堯子(一級建築士、もく(木)の会)

なぜ森を歩くと気持ちがいいのか? 木が人を癒したり、リラックスさせたりするメカニズムを科学的に研究されている宮崎良文博士。「快適性」という定義の難しい領域で、「不快ではない」という消極的な快適性ではなく、「気持ちいい」という積極的な快適性について最新の研究成果をご紹介いただきました。快適であること、健康であること、人が本来あるべき姿とは何か。その根本的な考え方から、木のリラックス効果を評価した科学的データ、さらにはダニの問題まで、非常に興味深いお話を伺うことができました。

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「森林と木材の気持ちいいを科学する」

1.「快適性」とは何かー人が本来あるべき姿

人間がヒトとなって500万年。現代のような都市、人工環境下で過ごすようになったのはたかだか200年に過ぎない。ヒトの身体は自然環境用のもので、現代の生活は常に緊張を強いられた状態にある。私たちが木材や森林を通して”リラックスした”と感じるのは、高すぎる緊張状態にあるものが、本来の姿に近づくということ。それによって免疫機能も上がり、本来の機能が発揮されるのではないだろうか。

2.積極的快適性の評価のためにー個人差を科学すること

「快適性」には厳密な定義が無い。宮崎氏はこれを「外部との相互状態が良いこと。同調していること」と考える。これまでの快適性評価は「不快ではない」という消極的な快適性を、1つのストレス反応評価(例えば血圧)で行ってきた。これには個人差はなく、平均的な結果として示される。しかし、これから必要となってくるのは、常に緊張状態にある現状から積極的にリラックスをするという快適性評価。これを生理的な指標で評価できるようになってきたのが1990年代からである。「気持ちいい」と感じる積極的快適性では、直観と非論理的であることがキーワードとなる。この直観、すなわち遺伝子レベルでのシンクロナイズをいくつかの生理的な指標で評価し、科学的なデータとして検討している。「健康」についても、絶対的な指標ではなく相対的に考えることが求められており、個人差も含めて評価していくことは重要である。

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3.森と木のリラックス効果

評価手法の発達により、木や森林浴が人の生理機能に及ぼす影響を評価したデータが蓄積されつつある。自然の木材では、主観的な評価で「嫌だ」と感じていても生体的な反応が起こらないといった興味深い事例もあり、これまでの感性評価とあわせて生理的な指標を用いることで新たな知見がもたらされると考えられる。都市部と森林とに出かける実地実験では、森林での沈静化、免疫活性化効果だけでなく、都市部へ出かけるグループの人たちが出かける前からストレスを感じていることも示された。

4.木とダニ

木の香りがダニの活動に及ぼす影響を調べた実験結果を紹介。精油成分の多いヒバやヒノキで効果が高く、こういった木材の良さを活かすことも大切であろう。

Q&A

Q:”1/fゆらぎ”というのを聞いたことがあるのだが。 A:1/fゆらぎは一般的に生物にほとんどある現象。以前に1/fゆらぎと快適性の関係が話題になったが、今はそれほど強い相関はみられない。むしろ1/fゆらぎから外れると不快であるということは言えるかもしれない。(宮崎氏)

Q:ダニの実験で、ヒバ、ヒノキ以外の結果は。また、国産材と外材に違いはあるのか。 A:松もやっている。松は杉より効果あり。基本的に針葉樹、油の多いものが効いているようだ。他の評価軸ではどうなるかわからないが、このダニに関する実験だけでは国産材と外材の違いは出てこない。(宮崎氏)

Q:森林浴の免疫活性が上がったという実験で、個人差はあるのか。私は近くの山に行って帰ってくると顔つきが違うと言われることがあるのだが。 A:個人差は全てのデータにある。ただ、あの実験では12人の平均値として免疫活性に有意差があったということが大きい。顔つきが変わるというのは、やはり普段高い緊張状態にあるのが、森に触れることによって、自分では気がつかないけれど本来のあるべき姿に近づいているということなのではないか。(宮崎氏)

Q:実験は成人男性ばかりで行われていたようだが、男女差や子供の場合についての評価は。 A:男女差に関する文献は実は少ない。ただ、女性の場合は月経周期もあり非常にバラツキが大きいということが言われており、実験についてはまだ方法論が確立していない段階。子供については、研究の倫理審査委員会での判断が難しくなるといったこともあって実現していない。いずれもこれからの課題である。(宮崎氏)

Q:鉄筋コンクリート、鉄骨、木造ではどれが一番丈夫なのか。またコスト的にはどれが安いのか。 A:一般住宅の耐震性についてであれば、違いはない。値段は鉄筋コンクリートが一番高い。木造の場合は使用する木材のランクによって値段が大きく変わる。(中川)

Q:節のある材について、強度的、値段的な問題はどうか。 A:節のある材であっても強度的には問題ない。ただし、節の状態によって異なるため、強度が必要な柱などでは必ず最初の段階で選別する。(中川) A:値段は産地によっても大きく変わるが、節のある材は基本的に安い。内装材としても積極的につかっている。(藤田)

Q:集成材というのはどうなのか。やはり無垢材の方がいいのか。子供がアトピーで、集成材を使ってリフォームしたことを後悔している。 A:大きな空間を作る場合など、強度的に集成材を使わなければならない場合や値段的に選択するという場合もあるが、もく(木)の会では基本的に無垢材を使う。その場合は後でクレーム問題にならないよう、無垢材の特性を施主や工務店にきちんと理解して納得してもらう必要がある。現在の建築基準法で決められているF☆☆☆☆はホルムアルデヒドのみの基準であり、その値も子供や女性など個人差を考慮したものとは言えない。健康に配慮されたものかどうかという点では疑問が残る。(藤田)

詳細は講演録へ [pdfファイル]

このセミナーは、(財)日本・住宅木材技術センター「平成17年度中小住宅生産者による木造住宅生産体制の整備事業」として実施しました。