住まいのなるほど連続セミナー 「木の良さを住まいに取り入れる」第1回 12月4日(日)「子どもがのびのび育つ木の空間づくり」

セミナー 2005.12.4

第1回 子どもがのびのび育つ木の空間づくり

「子供を癒す実践活動~木が果たす役割~」谷口義昭 氏(奈良教育大学教授・農学博士)   「子供が生活する空間に木を取り入れる~実例紹介~」   相河真弓・西野智子(一級建築士、もく(木)の会)

奈良教育大学で技術科の先生を養成されている谷口義昭教授。付属中学校の校長先生でもあります。   将来を担う子どもたちが「木」、木材について学習する機会は、中学校の技術・家庭科の授業だけと言っても過言ではないとおっしゃいます。子どもたちだけでなく、大人にも楽しめる様々な教材を使って、木の良さをお話ししていただきました。   木材の良さを伝える活動は、先生が所属される日本木材学会内にも林産教育研究会が作られ、本格化しているとのこと。教育は100年単位で考えていかなければならないとしながらも、熱意ある取り組みは着実に効果を上げているようです。今回のセミナーでは材料としての木材の話だけでなく、子どもたちが取り組む里山活動や、木造校舎の効果について最新の研究成果もご紹介いただきました。

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「子供を癒す実践活動~木が果たす役割~」

1.今、子どもたちの教育が直面していること

管理主義・平等教育の弊害(悪平等・画一化)、自主性の欠如、学びからの逃避(理数科離れ)、教師の指導力不足、いじめ・不登校など、子供も教師もクタクタの状態が続いている。緊急課題として、いじめ・不登校など問題行動への対応や子供たちの「生きる力-自分で考え判断して行動する力」を育てる必要があると言われるが、まずは教師、生徒ともに”癒し”が必要なのではないかと考えている。

2.心の交流を取り戻す「裏山クラブ」の活動

奈良教育大学付属中学校での実践的な取組み。佐保田の丘といわれる丘陵地のふもとであるという立地条件を生かした「裏山クラブ」が文化クラブのトップとして活発な活動をしている。里山樹林の管理のための伐採、切り出した木を炭にする、切り出した木でシイタケ栽培をするなど、奈良県森林技術センターの協力のもと様々な活動が展開している。昨年夏には森林技術センターを見学し、本立て作りなどの木工も実施。子供たちの自主性が育ち、クラスの中で居場所の無かった子も生き生きと活動するようになったという。

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3.ものづくりー材料としての木材を知る

谷口研究室の取組みの紹介。小学校1,2年生向け生活科(理科と社会の統合科目)を中心に、木材加工とものづくりをいかに子供たちに知ってもらうか、学校教育における木材利用の意義を研究。材料としての木材を知るための様々な手法を開発している。   (手法例) ・木片と試験管に満たした水で比重を知る実験(写真1) ・給水率の違いを利用したおもちゃ(写真2:手前の小鳥のおもちゃ) ・木のパズルや良好な発音体としての木材を実感できるリュールシロフォン(写真3)などの工作 ・指先で材料をあてる実験 ・合板のしくみを体感する(単板を重ね合わせてみる)実験 など

また、小学校1、2年生の生活科の実践授業として割り箸の仕上工程を工作し給食で実際に使ってもらったところ、箸や食事への興味が増し、その後も捨てずに自宅で使ったりしているといった良い効果が得られている。

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4.木造校舎についての研究事例

「木造校舎が生徒の健康面に与える影響」として、埼玉県、長野県県庁の研究チームとともに木造・木質校舎について調べた中間報告より。 ・生徒へのアンケートでは、授業中の足の冷えが少ない、眼が疲れにくい、床に寝転んで遊びたくなる、校舎への愛着を感じるといった結果となった。 ・教師へのアンケートでは、イライラや落ち着き、疲れなどで有意差があり、木造・木質校舎の方が非木質化に比べて疲れを感じる度合いが低い結果となった。 ・インフルエンザによる学級閉鎖率も、木造・木質校舎の方が非木質化に比べて低いという研究結果がある。

Q&A

Q:「裏山クラブ」の手ごたえ、今後について。 A:一例として、友達関係が作れずに悩んでいた子が「裏山クラブ」に参加したことで、目に見えて変わったということがある。将来的には学校で不足している木製品を調べて、工作して、貢献意識を持たせるといった活動を広げて行きたい。(谷口氏)

Q:「裏山クラブ」の活動で、女生徒がいるのに驚いたが、活動に男女差はあるのか。 A:最近の子供たちは女性のほうが活発。トラブルも女の子の方が多く、効果も事例が多い分女子生徒のほうが多い。(谷口氏)

Q:木造の場合、耐火や耐用年数はどう考えればいいのか。例えば、水廻りなど問題になると思うが、100年もたせたいと考えてもいいのか。 A:耐火は公共施設などの場合は問題になってくることもあり、その際は鉄筋コンクリート構造で内装を木質化するということを考えるが、一般住宅の場合、防火の地域かどうかで変わってくるので、状況に応じて考える。木造の住宅はそのつくりようによっては何年でも持つ。柱や梁は太くしっかりとしたものをつくり、木材も乾燥をきちんとした材を使い、設備や水廻りはあとで手を入れられるように考えてつくっておくことで、長くもつ家をつくることができる。100年ほったらかしでは絶対にもたないが、木造の家は屋根、床下などの点検をきちんと手をかけていけば、十分に長くもたせることができると考えている。(西野) A:法隆寺、あれは手をかけて手をかけて今の形になっている。木造に関しては絶えず細心の注意を払っていけば、長くもつ。昔の木造校舎は隙間風といった悪いイメージがあるが、あのころの木材は天日乾燥。今は乾燥技術が発達したので、木造家屋、木造校舎の方の密閉性がいいとまで言われている。(谷口氏)

Q:節のある材と無い材、特に杉材について、その効果(精神的な落ち着き)といったものに違いはあるのか。 A:事例紹介では節のある内装材が多かったが、コストが違うというのがポイント。限られた予算内で無垢の材をということでは、節のある材が多くなる。強度的には変わらない。また、節にはひとつとして同じものがないことから、子供の脳にとって刺激になるといった話もある。あとは、使う人の好みの問題。(相河) A:節を気にされる方は年配の方が多いのではないか。最近の若い人は、節のある方がナチュラルだと思っているようなところがあり、テーブルのデコラ印刷にわざわざ節をつける場合があるほど。しかし、若い女性で一人暮らしの家に帰ると節が人の目に見えるという人もいて、やはり人それぞれだと思う。(谷口氏)

詳細は講演録へ [pdfファイル]

このセミナーは、(財)日本・住宅木材技術センター「平成17年度中小住宅生産者による木造住宅生産体制の整備事業」として実施しました。